ゲームデザイン研究:序論

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ゲームデザイン研究・序論

はじめに

本稿の二次的な目的は、とかく曖昧に語られがちな「ゲームデザイン」という概念を、デジタルゲーム(主に企業が製作し商業流通に乗るもの)の制作の現場でなされがちな議論を整理し、多少なりとも明確化することにある。ゲームルールの策定・データ設計などのフィールドでは、日々、同種の議論が繰り返されている。乱暴に一言で要約すると、「我々は何を作るのか」である。ゲーム制作の現場で、バックボーンを異にする開発者同士が、その業務において共通認識が形成されていないことによる弊害は多い。仕上がりイメージが異なるために発生するリテイク、度重なるリテイクによるスケジュール遅延、多発するバグ。そして迫りくる納期によってデスマーチがもたらされる。とかく時間と精神的持久力を消耗させがちな、制作現場における「意識の刷り合わせ」の効率化にほんの少しでも寄与できれば、と願う次第である。
ちなみに、本稿の主目的は、筆者の自己満足であることは付記しておこう。とはいえ、本論を筆者ひとりで展開していくことには当然限界があるし、ゲームデザインの研究が扱うものが「人間の好き嫌い・感情の揺れ」という、きわめて曖昧で属人的評価に依存するものである以上、議論を磨き上げるためには多角的な視野は不可欠である。したがって、感情に基づく罵詈雑言のようなものを除き、意見や感想の表明は大歓迎である。コメント欄は解放しているので、思う所のある読者に置かれては、貴重なご意見を賜れれば幸いである(ただし、即時性が求められるものでもなかろうと思料されるため、承認制とはさせていただく)。
また、本稿は筆者の属性として、「商用デジタルゲーム」開発にまつわる諸問題を中心に取り扱う。「ゲームデザイン」という言葉の持つ多義性に対して、取り扱う分野がいささか狭くならざるを得ないことを、冒頭でお詫び申し上げておきたい。


ゲームデザインとは何か

ゲームデザインとは何か。 それは、製作サイドの視点で見れば、ゲームを制作していく過程において、「どんなゲームにするか」を考え、また決定することである。デジタルゲームの製作現場において、プログラムを書いたりグラフィックデータを制作したりするうえで、「何を作るのか」を策定する業務を指す。ゲーム制作を「指揮」「計画」「実行」という領域に区分した場合、「計画」に相当する分野を言う。 プレイヤーという視点に立つと、これは「ゲームシステム」「仕様」「ゲームルール」あるいは「ゲームバランス」という言葉で表現される。時に運営イベントのルールやバグ補償の在り方という形で立ち現れるかもしれない。映画やドラマで例えれば、「脚本」「シナリオ」時には「原作」に相当すると言えば解りやすいだろうか。
では、ゲームデザイナーとは何か。語義的には「ゲームデザインを行なう者」であろうが、本稿ではこれを実際に存在する何者かを指し示すと言葉としては用いない。ゲームの製作現場において、「ゲームデザイン」業務は主に「ディレクター」や「プランナー」――伝統的には「企画」――と呼ばれる職種を与えられた者が行う。しかし、「ディレクター」の本来の職能は「指揮」にあるはずであり、「プランナー」はしばしば「実行」にあたる業務を受け持たされる。「計画」の領域を専門的に取り扱う人間は、現場には皆無であるか、いたとしても非常に少数である。語義的には「プランナー」の語は「ゲームデザイナー」とほぼ同義であるが、現場の「プランナー」が「プラン」に相当する業務を行なう機会は必ずしも多くないのである。
従って、本稿においては、現場の「ディレクター」や「プランナー」が受け持つ「計画」領域の容態について取り扱うため、敢えてこれを取り扱う者を指して「ゲームデザイナー」の語を用いる。しばしば「デザイナー」と略記することも多いだろう。単に「デザイナー」と記述する場合は、「グラフィックアーティスト」「グラフィックデザイナー」の事ではなく、ここで述べた「ゲームデザイナー」の意味であるとご理解いただきたい(「デザイン」の語も同様である)。


ゲームデザイン研究の意義

ゲームデザインを研究することは何をもたらすのか。
RPGという分野において、「戦闘」シーンへの遷移に「ランダムエンカウント」システムを採用しているものがある。また、「シンボルエンカウント」システムを採用しているものがある。シミュレーションゲームは、そのシステムから「ターン制」と「リアルタイム制(すなわちRTS)」に分類される。ゲームデザイン研究の目的は、これらを分類して悦に入ることではない(筆者の目的はそこであるが)。ゲームデザイン研究の有用性とは、現場レベルでの意思疎通を円滑にする機能であったり、入社したての新人に「とりあえずこれ読んどけ」と提示して教育コストを低減させる機能なのではないかと思う。これらの分類・考察が、開発現場で業務を行なう者たちの「共通認識として知っておくべき事項」としてコモンセンス化されることが目標である。現場のゲームデザイナーたちが提出する各種仕様の採用理由について、「実行」領域のスタッフたち(たとえばプログラマー、たとえばグラフィックデザイナー)が理解するための教養となっていていただきたいのである。そして言うまでもなく、ゲームデザイン研究が体系的にまとめられていることは、コモンセンス化のためには必要不可欠である。

ゲーム開発に必要な技術知識は年々高度化している。だが、「ゲームデザイナー」の技術が高度化しているかと問われると、首をかしげざるを得ない。これはパクリゲーやクソゲーが氾濫する市場を見渡していただければ同意いただけるのではないだろうか。 開発現場における「プランナー」のキャリアは微妙である。結果を残した者は「ディレクター」へと昇進し、やがてはプロデューサー、そして経営層へとその歩みを進めていく。また、結果を残せなかった者は、業界を去る。「プランナー」として現場に留まり壮年期以降の人生を過ごすには、求められる知的水準に対してこの業界の待遇は悪すぎるのだ。かくして、現場には若手や他業界から夢を求めてやってくる「経験の浅いプランナー」が氾濫する。ゲームデザインというものに思考リソースを割き続ける立場に居続けることが極めて難しいのだ。ゲームデザインを継続的に研究する者の不在は、従事者の回転の速さによるものなのではないかと思っている。
ゲームデザイン研究は、これまで試行錯誤されてきたゲームデザインの過去と現在を整理することで、「車輪の再発明」を抑止できるかもしれない。
従って、ゲームデザイン研究は、そのデザインを採用したタイトルも可能な限り参照できる形になっているべきだろう。実際に遊んでみなければわからないことは、非常に多い。と言うよりは、すべてのデザインがそうなのだ。


令和最新版


以上の文章を書いてから10年くらいの時間が経過した。
筆者は、元気にゲーム制作現場で働いている。
以上のような就業環境も、市場環境も、時代が移ろい、変わってきている。
というか、そういう机上の理論を弄ぶような暇がないレベルで、古参の下っ端プランナは忙しい。
ありがたいことです。

採用面接する立場になって思うこと 

最近の学生さんは、ホント優秀。マジでソツがない。
ゲーム開発、ましてや何のスキルも必要ないプランナ職を志すような人間の質が、圧倒的に変わってきた。
面接で私に当たるというような確率は奇跡みたいなレベルだと思うが、私が通す基準みたいなものは、言語化しておいていいようには思う。
追って執筆できれば幸いである。

プランナ職を志す人へ 

一口に「ゲーム開発現場におけるプランナ職のキャリアパス」と言っても、多様化してきているように思う。
スマホゲーの開発現場に放り込まれたら、専門性は磨けまい。しかし、総合力は鍛えられる。
逆に、据え置きゲーの開発現場に放り込まれたら、新人の業務はひたすら下積みである。
しかし、実績のある据え置きゲーの現場では、世界に通用する専門性を磨ける、という言い方もできる。
この業界を志すのであれば、作りたいものと自分にやれることの解像度を上げておいたほうが、説得力が出る。
自分は何が好きで、何が得意なのか?
これを言語化できれば、面接を口八丁で突破できる可能性が上がりそうである。